売れた本ではなく、愛された本を知った町の本屋

通りの角にある小さな本屋。並ぶのは二千冊ほど、棚を守るのは店主ひとりです。彼女はどの本が売れたかは知っています。レジを通った数字は、はっきりと残るから。けれど、どの本が本当に愛されたかは、ずっと見えないままでした。

毎日、それを目にしてはいたのです。だれかが一冊を抜き取り、最初の一行を読み、ページをめくる手が止まらなくなる。表紙を胸に抱くようにして、ひととき店内を歩く。そして、そっと棚へ戻して帰っていく。今日は持ち帰れない一冊。けれどその人の心には、確かに何かが残った。その「残った」を、彼女は数えるすべを持っていませんでした。

そこで、棚の一つひとつに小さなカードを添えました。「この一冊が心に残ったら、いいねを」。本に惚れ込んだ読者は、買わなくてもただタップすればいい。一人にいいね一つ、財布もいらず、レジへ向かう気まずさもありません。店主は、どの背表紙がいいねを集めていくかを、静かに見守りました。

ひと月もすると、絵がくっきりと浮かびました。地味な装丁の一冊が、平台の話題書を抜いて、いちばん多くのいいねを集めたのです。人は買わなくても、その本を確かに愛していた。彼女はそれを多めに仕入れ直し、ショーウィンドウのいちばん良い場所に据えました。逆に、よく動くけれど誰の心も動かさない本は、静かに棚を譲ってもらう。

仕入れの勘は、いつのまにか研ぎ澄まされていきました。人の目を輝かせる本を厚く、素通りされる本を薄く。売上表にはできないことを、いいねがしてくれたのです。取引の数ではなく、愛しさの量を数えてくれた。

彼女がいちばん好きなのは、いいねが何も求めないところです。会員登録も、レビューも、長い感想もいりません。いいねはただ一つのことを伝えます。「この本を、覚えていてね」。読者がそっと残していくその一言を、彼女はようやく聞き取れるようになりました。