客席の正直ないいねが選んだ、町のダンスコンテスト
毎年開かれる、町のアマチュアダンスコンテスト。出場するのは十二組ほど。これまで優勝者を決めてきたのは、最前列に座る数人の審査員でした。そしてその結果は、いつもどこか後味が悪かったのです。審査員と顔なじみの組、声の大きな応援団を連れてきた組、そういう踊り手が決まって賞を持っていく。実力ではなく、座る場所と人脈で決まっているように見えました。
今年、運営は決め方を変えました。一組が踊り終えるたび、その演技専用のいいねコードがステージ脇の画面に映る。心を動かされた客は、スマホでそのコードにいいねを押すだけ。優勝者は審査員の机からではなく、客席の正直な気持ちから生まれることになりました。
肝心なのは、いいねの仕組みです。いいねは一人ひとつだけ。同じ人が何度も連打して数を水増しすることはできません。大きな応援団も、票を積み増す手立てを失いました。そして、いいねは匿名です。誰が誰にいいねを押したかは、誰にも見えない。気がねも、しがらみも、義理もいらない。客席は、ただ自分が本当に動かされたかどうかだけで指を動かせばよかったのです。
その夜、思いがけないことが起きました。応援団もなく、客席に知り合いもいない、もの静かな踊り手の女性。彼女が踊り終えたとき、拍手はまばらでした。けれど画面のいいねは、静かに、けれど確かに伸びていったのです。歓声ではなく、一人ひとりの胸の内が、数になって積み上がっていく。会場が本当に心を動かされた相手は、いちばん声を立てなかったその人でした。
最後にいいねがいちばん多かったのは、彼女でした。誰も異を唱えませんでした。番号と数字は、その場の全員が見ていたから。今年の結果には、後味の悪さがありませんでした。
いいねは、声の大きさを測りません。コネも、座席の位置も、応援団の人数も数えない。ただ一つの、正直で名前のない言葉を伝えるだけです。「あなたに、心を動かされた」。その夜、その言葉だけが、勝者を選びました。